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モミの木

町の外の森の中にかわいらしいモミの木がありました。そこはとても気持ちのよい場所で日当たりもよくすがすがしい空気もありました。 時々イチゴを摘みにきた子どもたちがモミの木の側までやってくると「なんて小さな可愛いモミの木」そうほめてくれました。
ところがモミの木は大きくなりたいとばかり考えていたのでちっとも嬉しくなんかなかったのです。

小さなモミの木は一年、二年とすこしずつ大きくなりました。 毎年秋になるときこりがやってきて、大きな木を何本か切って行きました。 大きな音を立てて倒れた大木が枝を落とされて丸裸にされた姿で森の外へ運ばれていくのですから、ぞっとするような光景でした。 春になり、コウノトリが立派な柱になったモミのことを教えてくれました。
「あぁ僕も海を越えていけるぐらい大きかったらなぁ」
「お前の若さを楽しむがいいよ」
お日様はいいました。でももみの木はお日様のいっている意味がわかりませんでした。 クリスマス近くになると若く美しいモミの木が切り倒されていきました。
すずめたちが若いもみの木にやってきて、
「この前切られたモミの木は部屋のまんなかできれいに飾られて輝いていたわ。」と教えてくれました。
「なんて素晴らしいんだろう。僕もきれいに立派になれたらなぁ。それからもっともっと素晴らしいことがあるに違いないよ。だってそんなにきれいに飾られるんだから」
「私たちがいるじゃないか、ここでお前のいきいきとした若さを楽しみなさい」お日様と空気はいいました。 でもモミの木はやっぱりうらやましくてなりません。

夏が過ぎまたクリスマスが近づいてきました。そして美しい木に成長したモミの木は真っ先に切り倒されたのです。 けれど、斧の痛みはひどいし、生まれ故郷を離れ友達とも離れなくてはいけないし、思っていたような嬉しいことではありませんでした。
そして次に木がついたのは大きな屋敷でした。大きな部屋の真中に据えられて立派に飾り付けられました。てっぺんには星がつけられました。 夜になるとモミの木にかざりつけられたろうそくに火がともされ、きらきらと輝いてとても華やかでした。 それからモミの木の回りを取り囲んだ子どもたちがその枝からキャンデーや贈り物をもぎとっていきました。そしてモミの木の下にあつまって「階段から転げ落ちたのに王様のお姫様をもらったずんぐりむっくりさん」のお話を聞きました。
モミの木は明日になったら他のお話も聞けるのだろうと明日を楽しみにしていたのです。

次の日家の人がやってきてモミの木を、日のささない屋根裏部屋へ片付けてしまいました。モミの木は今が冬だから春になって植えることができるまで片付けられているのだろうと思いました。ですが、暗い部屋はやはり寂しくてしかたがありませんでした。 そこへハツカネズミがやってきました。 モミの木はハツカネズミたちに自分の生まれた小さな森の話をしました。
「なんてあなたは幸せだったのでしょう」
そう言われて初めてモミの木はあの時が一番幸せだったのだと思いました。 次の日はもっとたくさんのハツカネズミたちがやってきて、モミの木は森の話やずんぐりむっくりさんの話をしてあげました。

ある朝人々が屋根裏部屋にやってきました。そしてモミの木を引っ張り出し中庭に放り出されました。 久しぶりの陽射し、すがすがしい空気、花々、鳥の声。心が奪われました。 さあこれからまたお日様の下で生きるんだと枝を伸ばそうとしたモミの木は自分の枝がすっかり黄色く枯れてしまっていることに気がつきました。 中庭で遊んでいた子どもたちがモミの木をみつけ、一番小さな男の子がモミの木から星を奪って行きました。
「楽しめる時に楽しんでおけばよかった。お日様の言っていたことはこういうことだったんだ」
下男がモミの木の枝を落としてマキをつくり、マキは酒の釜の下で赤々と燃えました。 モミの木はため息の度パチパチとなる火花があがるたびに小さな森やクリスマスイブのことずんぐりむっくりさんのお話を思い出しました。そしてとうとうみんな燃えてしまいました。

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