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きんびょうぶ

むかし、むかし、小さな村に古いお寺があり、そのお寺を守っていたのは年老いたお坊さんでした。
ある日のこと、村は台風に襲われ、村のあちこちで、家が強風にやられるなか、お寺も例外ではありませんでした。
中でもお寺の壁が大きくはがれ落ち、壁に大きな穴があいてしまいました。
和尚さんはいつも日曜日にお寺に人々を集めていましたが、それまでに壁を直すのは難しいと思い、とりあえず穴を隠すものを買ってくることにしました。
和尚さんは、大小さまざまな骨董品を陳列している骨董屋を訪ねました。お店に足を踏み入れた途端、目がくらみました。
おりからの夕日が、金屏風にあたっていたのです。その古い屏風は、ところどころ金箔が剥がれているものの、それは美しいものでした。
和尚さんはその豪華な屏風に目を留めていると、骨董屋の主人曰く、家に置くには大きすぎて、買おうという客はいない、とのこと。
和尚さんは屏風の大きさをざっと見て、これは壁の穴を隠すのに丁度いい、と思い、お寺まで運んでもるように主人に言いました。
寺に戻ると、みすぼらしい身なりの老婆が門の所にたたずんでいました。顔は青ざめ、しわだらけでしたが、どこか優雅さが漂っていました。
その様子から推察すると、昔はそれなりの暮しをしていたものの、長くて辛い生活を送ってきた人のようです。
老婆は和尚さんに歩み寄ると、しばらくお寺において頂くわけにはいきませんか、とお願いしました。台風で家が壊され、身よりもない、とのことでした。
和尚さんは気の毒に思い、寺の中に入れると、和尚さんは老婆に、好きなだけ居ていいですよ、と言いました。
翌日、屏風が届き、和尚さんは本堂の壁の穴の前に屏風を置くと、さっと開きました。
和尚さんは満足そうに屏風を眺めていると、和尚さんの後ろにいた老婆も屏風を見ました。すると老婆は目を丸くし、その目は見るみる涙でいっぱいになりました。
「どうしました。」
「ええ、ちょっと気になることを思い出しました。この屏風、とても古そうです...なぜか昔のことを思い出しました。実は、私は、これとまさに同じ屏風を持っていたのです。夫に結婚の記念としてもらったものです。あれから長い年月が経ちました。勿論、私の屏風のほうがこれよりきれいでした。屏風の裏に、記念に日付を入れました。」
そう言うと、老婆は、屏風の裏に回りってみると、なんとそこには、日付が入っていました。
「あるわ!私のものだわ!」老婆は大きな声をあげました。
「昔は、お金持ちの商人の妻でした。でも40年程前この辺であの大きな地震があった時、たまたま隣り町に出かけていました。地震の恐怖でしばらく記憶を失ってしまい、自分が誰なのか、どこにいるのかもわからなくなっていました。記憶が戻った時は、全てを失っていたのです。家族も持ち物も全部。」
和尚さんは驚きました。
「この屏風、あなたにお返しするほうがいいですか。」
「いいえ。夫の愛のしるし、共に過ごした素晴らしき時の思い出ではありますが、持つことはできません。私にはもう家がありませんから。このお寺が屏風には一番ふさわしい場所かも知れません。」
次の日曜の晩はお寺に人がたくさん集まりました。その中でも、一人の老人が時々屏風に視線を投げかけているのに、和尚さんは気づきました。老人は、この村で40年ほど暮していました。和尚さんは老人に声をかけました。
「あの屏風が格別気になるようですね。」
「はあ、その通りです。むかし商人をしていて、妻と一緒に暮していました。しかし40年程前のあの忌まわしい地震で、私は家族を全部失ってしまいました。このあたりのどこかで生きていればと思い、あれからずっと家族を探していますが、努力は報われませんでした。もう半ばあきらめています。」
と老人は涙声で答えました。
「しかし...この屏風は私が妻にあげた屏風に違いありません。その証しに、裏に妻がかいた日付があるはずです。」
「実は、先日このお寺に来られたご婦人が、この屏風は以前、自分のものだったと言っていました。あなたの家族に違いありません。今もこのお寺におられますよ。」
古い屏風のおかげで、年老いた夫婦は40年ぶりに再会し、二人は幸せに暮しました。

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