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むかしのキツネ

むかし町へ向かう峠に一軒の茶店がありました。
その茶店は喜平(きへい)というおじいさんが一人でやっておりました。
喜平さんは毎朝はやくから店をあけては峠をこえて行く旅人たちのためにおいしいお茶とお団子を作っており、旅人たちも喜平じいさんのお団子が楽しみで必ず峠の茶店に立ち寄りました。
あるときいつものようにいちにち忙しく働いた喜平さんはうすぐらくなってひと気のなくなった峠道を見ながらそろそろ店を閉めようとしたくをはじめていました。
するとそこへ立派なお侍がひとりで馬もなしにぶらりと店に入ってきて、こしをおろし、
「やぁじいさん、ずいぶん歩いてのどが渇いた。どれお茶をいっぱいもらうとしよう。そうそうついでにお団子もくれないか。」といいました。
喜平さんははいはいとこたえてしたくをしようとしてお侍の顔を見てあっと思いました。お侍はとても立派な着物を着てきれいなはかまをつけ、刀もふたさおちゃんとさしていましたが、どうにも顔が妙なのです。 目が釣りあがって鼻と口がとがって前にせり出していますし、耳がなにしろずいぶんと上のほうにあってそれもとんがっていました。
喜平さんはははぁこれはやまのきつねどんだな・・と思い、ちょっと脅かしてやろうと思いましたので、明かりを強くしてたらいに水を張りお侍のところに持っていきました。
「さぁさぁ長いこと歩かれてさぞお疲れのことでしょう。このところの雨不足で道もほこりっぽくなっております。お侍様きれいな水を用意いたしました。どうぞお顔をお洗いなさいまし。」
するとお侍は喜んで
「やれありがたい。それでは・・」
と水をつかおうとたらいに顔を近づけましたが、そのとき水に映った自分の顔を見て「きゃん!」とひと声叫んだかとおもうとおどろいてぴょーんと飛びのいた拍子にたらいをひっくり返し、一目散に茶店を飛び出すとあっというまに暗闇に姿を消してしまいました。
喜平さんはたらいを片付けながらおかしくておかしくて、なんどもきつねの驚いたときの様子を思い出しては笑いこけました。
さて翌日喜平さんは山へたきぎを取りに行き、たくさんあつめ背負ってさぁかえろうとしたとき、山の中から「きへいさん、きへいさん。」と呼ぶ声がしたので、喜平さんは立ち止まって振り返りましたが誰もいません。
すると喜平さんを呼び止めた声はいいました。
「きへいさんゆうべはおかしかったね。すぐにわかったの?」
喜平さんはくすっとわらってこたえました。「ああすぐにわかったさ。」
そして喜平さんは昨日のことを思い出しながらてくてくと楽しげに歩いて帰っていきました。

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